マンションのフラット35合格率は低いのか

今回はマンションにおけるフラット35の適合可能性についての話です。かつては適合する可能性が低かったのですが、基準の緩和とマンション管理の向上によって現在では状況が大きく改善して、フラット35が非常に利用しやすくなっています。かつての低合格率のイメージが今も払しょくされていない様子があるので、過去の旧基準と現在の新基準との比較を中心に解説します。

緩和後の対象マンション適合率の概要

基準の主要項目別にみた推定適合率を示した表

○推定適合率の算出は、平成25年度マンション総合調査のデータをもとに推計しています。マンション総合調査は、国土交通省が管理組合や区分所有者のマンション管理に関する基礎的な統計・データ等を得るために行っているもので、昭和55年より約5年に一度、国内のマンションの管理状況、居住者の意識等を調査したものです。

○管理規約についての維持管理基準は、従来は規約内容について細かく審査されていたものを大きく緩和したため、ほとんどのマンションがクリアできるものとなっています。

○長期修繕計画についての維持管理基準は、近年のマンション管理に対する取組の向上により、大半のマンションがクリアできるものとなっています。

○劣化状況についての基準は、かつては大規模修繕工事での補修が前提の劣化事象や物件売却時には一般的に見られるような軽微な劣化をも不適合項目としていましたが、それらの不合理な適合条件が現在では大幅に緩和されており、大半のマンションでクリアできるものとなっています。

●マンションは全国で約6万棟、近畿圏では約1万棟あると推定され、中古マンションらくらくフラット35その他のフラット35適合証明書発行実績リストに掲載のないマンションであっても、住宅金融支援機構の新しい技術基準に適合可能なマンションは多数存在することとなります。

管理規約についての基準緩和

管理規約についての旧基準
①対象物件の範囲 敷地、建物及び付属施設の記載のあること
②共用部分の範囲 共用部分の範囲の記載があること
③管理費等 区分所有者が管理費及び修繕積立金を管理組合に納入しなければならない旨の規定があること
④修繕積立金の使途範囲 修繕積立金の使途として「一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕」が規定されていること
⑤修繕積立金の区分経理 修繕積立金(特別修繕費を含む)は管理費と区分して経理しなければならない旨、規定されていること
修繕積立金が「管理費に充当するために取り崩すことができる。」旨が規定されていないこと
⑥管理組合の業務 管理組合が管理する敷地、共用部分及び付属施設の修繕及び変更に関する業務が管理組合の業務とされていること
⑦集会の議決事項 次の4つのすべてが集会の議決を経なければならない旨、規定されていること。
イ)収支決算
ロ)収支予算
ハ)管理費、修繕積立金及び使用料の額並びに当該費用の賦課及び徴収の方法
ニ)「一定年数の経過ごとに計画的に行う修繕」に充てるための資金の借入れ及び修繕積立金の取り崩し

○管理規約についての維持管理基準の各項目は、国土交通省の標準管理規約に沿ったものです。ただし、⑤の後段については標準管理規約の規定になく、独自に設けられたものです。

○平成25年度マンション総合調査では、管理組合に対するアンケート調査にて『標準管理規約に概ね準拠している』ものの割合が、83.8%となっています。しかし、『概ね』の準拠であることと、修繕積立金が管理費に流用されることは度々問題とされきたこと、さらにフラット35独自の規定が設けられていることなどから、適合証明書取得におけるマンション物件検査の合格率をより低下させていたものと考えられます。

管理規約についての新基準
①管理規約が定められていること

○新基準においては、管理規約の内容は審査対象とならず、管理規約の有無のみにて適否が判断されるものとなりました。

●平成25年度マンション総合調査では、管理規約のあるマンションが、新耐震設計基準の物件では98.6%となっており、ほとんどのマンションがこの新基準項目に適合するものと考えられます。

長期修繕計画についての取組向上

長期修繕計画の計画期間が20年以上
(平成6年度以前に作成したものは、15年以上)あるものの割合
平成15年度 57%
平成25年度 80%

○平成25年度および平成15年度のマンション総合調査のデータから、新耐震設計基準で作られた場合の適合率を推定したものです。

○平成15年の時点では、計画期間が10年以下のものが全体の2割以上を占めていたために、基準に適合すると推定されるものの割合が50%台に留まっていました。

●その後の全国的な管理組合の取組の向上や、国土交通省の標準管理規約コメントにおける推奨計画期間の引き上げなどにより、計画期間が20年以上のものの割合が大きく伸び、平成25年の時点では80%に達しており、フラット35等の技術基準に適合する確率が高くなっています。

劣化状況についての基準緩和

劣化状況についての旧基準
共用部分 ①基礎 著しいひび割れ又は欠損等がないこと
②外壁等 仕上げ材に著しいひび割れ又は欠損等がないこと
シーリング材の破断等がないこと
漏水等の跡がないこと
③鉄筋の露出等 鉄筋が露出して視認できる状態がないこと
専有部分 ①屋内に面する壁、柱及び梁 (1)仕上げ材等に著しいひび割れ、欠損、剥がれ等がないこと
(2)漏水等の跡がないこと
(3)壁又は柱に傾きがないこと
②床 (1)床に著しい沈みがないこと
(2)仕上げ材等に著しいひび割れ、欠損、剥がれ等がないこと
③天井 (1)仕上げ材等に著しいひび割れ、欠損、剥がれ等がないこと
(2)漏水等の跡がないこと
④階段 (1)構造体に著しい欠損又は腐食等がないこと
(2)踏面に著しい沈み、欠損又は腐食等がないこと
⑤バルコニー (1)床に著しい沈み、欠損又は腐食等がないこと
(2)防水層の破断がないこと
(3)支持部に欠損、腐食等がないこと
⑥屋外に面する開口部 (1)建具の周囲に隙間がないこと
(2)著しい開閉不良がないこと
⑦給水設備 (1)給水設備に漏水がないこと
(2)赤水が出ないこと
(3)給水流量に不足がないこと
⑧排水設備 (1)排水設備に漏水がないこと
(2)排水時の滞留がないこと
⑨機械換気設備 作動不良がないこと
⑩転落防止用手すり (1)手すりに著しいぐらつきがないこと
(2)手すり若しくはこれを支持する部分に著しい腐食等がないこと
⑪鉄筋の露出等 鉄筋が露出して視認できる状態がないこと

○旧基準では、共用部分および専有部分の双方が審査対象となっていました。

○専有部分の基準項目では、内装仕上げ材も審査することとなっており、売買時には内装を補修せずに現状有姿にて引き渡すことが一般化している取引慣行においては、不合理な審査基準となっていました。

平成25年度マンション総合調査(マンションで生じている建物の問題)
外壁や共用廊下のひび割れ 29%
鉄筋の露出・腐食 7%

○旧基準での共用部分の審査項目には、外装仕上げ材のひび割れ等やシーリング材の劣化がチェック対象となっていました。

○マンション管理では一般に、外装仕上げ材のひび割れやシーリング材の劣化に対しては、逐一補修を行うのではなく、大規模修繕工事の際に対応するものとなっており、このため大規模修繕工事の実施前では、ひび割れ等が存在することが多くなり、フラット35適合証明のための物件検査に合格する可能性が低くなってしまいます(推定適合率71%)。

○鉄筋の露出等に関しては、大規模修繕工事を計画的に行って、ひび割れ等の補修を適切に行うことにより、鉄筋の露出等に発展しないように抑えることが一般的です(推定適合率93%)。

劣化状況についての新基準
共用部分 鉄筋の露出等 鉄筋が露出して視認できる状態がないこと

●劣化状況についての新基準においては、審査対象が共用部分のみとなり、長期修繕計画に基づく大規模修繕工事の実施を前提とした合理的な基準項目となっていて、修繕積立金などを適切に蓄えて大規模修繕工事を計画的に行うようなマンションで新耐震設計のものならば、基準に適合する可能性は9割を超えると言っても過言ではありません。

 

フラット35融資の対象物件であるかどうかの判断を後回しにして売買契約を進めることは、買主および売主の双方にとって大きなリスクとなります。売買契約や売出しに先行して判断のための調査を行うことをお奨めします。

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