契約書次第で住宅ローン控除が不可に!?

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令和4年度税制改正が国会にて成立すれば、『登記簿上の建築日付が昭和57年1月1日以降の家屋』については、『住宅の取得等をして令和4年1月1日以後に居住の用に供した場合』の住宅ローン控除等は、耐震基準適合証明書がなくとも適用となります。以下の記事の内容は、これにより変わる可能性があるのでご注意ください。

引渡日の秘密に気付いてますか?

不動産の売買契約というのは、ほとんどの人にとって一生に一度あるかどうかの出来事でしょう。目の前にある売買契約書は、生まれて初めて見るもので、どこをどう読んだらいいのか分からないというのが普通の人だろうと思います。

この売買契約書でマイホーム購入のあらゆることが決まってしまいますので、やはり人任せにするわけには行きません。ネットや書籍に書かれている契約書のチェックリストと首っ引きで、何か問題や失敗の原因になるものはないかと目を皿のようにする人、多いですよね。

特に中古マンションや中古一戸建て住宅の場合は、構造や築年数など物件の条件によって注意すべき点が違ってきたりするので大変です。仲介業者さんでも気付かずに見落とすことがあるぐらいです。

この記事では、契約前にトラブルや後悔の防止が出来るように、不動産売買契約書に書かれていることのうちで、パッと読んだだけでは気付けないような隠れたチェック事項をお伝えします。

売買契約書には必ず、所有権移転・引渡し・登記手続きの日が記載されています。この日から土地家屋等の不動産の所有権は買主の方に移ります。通常は同じ日に売買代金の残余金の支払いも行うので、決済日という言い方もしますが、買主の方にとっては待望のマイホームが手に入る日ということで、引渡日という呼び方に人気があります。

この引渡日は、租税特別措置法では原則的に土地や家屋の取得日として扱われます。ここで突然に税金の法律の話が出てきたので戸惑う人もいるかも知れませんが、実はこの取得日すなわち引渡日が住宅ローン控除と大きく関係してきます。

住宅ローン控除というのは、既にご存じの方も多いと思いますが、住宅を取得する時になされる住宅減税のうちで最も効果が大きいもので、住宅ローンを利用して取得した場合、最大で毎年20万円を10年間の合計200万円の税控除が所得税から受けられる制度です。

この住宅ローン減税の適用条件の詳細はここでは省きますが、大きな条件として、新築してから20年(又はマンション等では25年)以内の物件ということ(経過年数基準)があります。そして、その分かれ目が引渡日だということです。逆に言うと、引渡日が新築後20年(又は25年)を超えてしまうと、住宅ローン控除すなわち最大200万円の税控除が受けられないということなのです。

つまり、契約締結の前に売買契約書をチェックするとき、引渡日が新築後20年(又は25年)を超えていないのかどうかもチェックする必要があるという訳です。

よくある間違いは、新築後20年(又は25年)という経過年数基準のことは知っていたが、取得日を契約日だと勘違いしていたというものです。契約日が新築後20年となる日の少し前だったので、住宅ローン控除は大丈夫と安心していたら、確定申告の際に税務署で、引渡日が新築後20年を超えているから住宅ローン控除は適用されないと言われて真っ青になるというものです。こうならないように正しく計算して確認しましょう。

この経過年数基準の期間は、新築日から取得日までです。したがって経過年数基準の算定では、引渡日ともう一つ、新築日も必要になります。この新築日は、登記簿(又は登記事項証明書、以下同じ)に記載された日付です。売買契約書を読む時には、登記簿も照らし合わさなければならないということですね。

なお、引渡日と決済日が違う日になっているなどの場合、どの日が取得日になるのかは税務署の判断になるため、その確認も併せて行う必要があるので注意してください。

さて、契約書に書かれた引渡日ですが、読み解くのにもう一つの鍵が必要です。

登記簿に隠されたもう一つの鍵

前章では、経過年数基準を新築後20年又は25年と書いています。一体どちらなんだと悩まれる人への答えが、これもまた登記簿に書かれています。

不動産登記簿には、家屋の構造が記されています。木造とか鉄筋コンクリート造とかいったものです。この構造によって経過年数基準が20年か25年かが分かれます。代表的な構造で例をあげると、木造や軽量鉄骨造は20年、鉄骨造や鉄筋コンクリート造は25年となっています。

よくある間違いは、軽量鉄骨造を鉄骨造と勘違いして25年で計算してしまうことです。計算したら引渡日が新築後25年以内だったので住宅ローン控除を受けられると思い込み、確定申告の時に税務署から20年を超えているので対象外であることを知らされて全身が凍り付くというものです。

25年で計算出来る鉄骨造は、いわゆる重量鉄骨造と呼ばれるものですが、登記簿では鉄骨造としか書かれていないので分かりにくくなっています。

また、登記簿での構造の種類の書き方と、建築基準法での構造の種類の書き方が違うことも間違いやすい原因です。登記簿で軽量鉄骨造である家屋が、建築確認済証では鉄骨造と書かれていることがあります。確認は登記簿で行うことが必要です。

複数の構造が混ざって出来た構造も間違いやすくなります。木造と鉄筋コンクリート造が混じっているものは、木・鉄筋コンクリート造と書かれたりしますが、後半の鉄筋コンクリート造だけで判断してしまって25年で計算してしまうことがあります。しかしこれは20年です。

法令の規定では、25年で計算できるのは、建物の主たる部分の構成材料が、石造、れんが造、コンクリートブロック造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造又は鉄骨鉄筋コンクリート造のものに限られています。混ざった構造が登記簿に書かれている場合は、税務署への確認が必要ですね。

住宅ローン控除の可否によって、資金計画が200万円も変わることがありますから、売買契約の前にしっかりチェックしておきたいところです。

しかし、もしも引渡日が経過年数基準を超えていたとしたら、その時は住宅ローン控除をあきらめるしかないのでしょうか?

逆転の切り札は耐震基準適合証明書

例えば木造住宅の場合、売買契約書の引渡日が新築後20年となる日の3日後であったとしたら、そのままでは住宅ローン控除は適用されません。最大200万円の減税が受けられなくなり、資金計画が苦しくなってしまいます。

もし契約前にこれに気付いたならば、引渡日を早くして築20年以内にすれば、住宅ローン減税の対象にすることが出来ます。しかし、それが出来ないときには、住宅ローン控除を受ける手段はあるのでしょうか?

築20年(又は25年)という経過年数基準を満たさないときは、耐震基準を満たすことを証明する書類があれば、住宅ローン控除が可能になってきます。その書類の代表が耐震基準適合証明書です。

ただし、この耐震基準適合証明書は、家屋の取得日とされる引渡日までに用意しなければなりません。その引渡日を過ぎてから準備をしても手遅れになります。

耐震基準適合証明書は、いつも作成できるとは限りません。家屋を調査して、耐震基準に適合していることが確認できた場合に限られます。

家屋を調査して証明書を作るためには、その家屋の所有者である売主の方の協力も不可欠です。その協力を引渡日までの限られた時間内に得る必要があります。

またマンションの場合では、他の住戸で住宅ローン控除が受けられているので、同じマンションだからもう用意しなくてもいいと勘違いするケースもあります。耐震基準適合証明書は各住戸ごとに作成されるもののため、同じマンションであっても別の住戸の証明書は有効とはならず、自分のところの証明書は自分で用意するしかないのです。

このように耐震基準適合証明書の取得には、不確実性と時間の制約が伴います。したがって少しでも早く、売買契約の前に少なくとも調査だけでも行っておくことが適切となるのです。トラブルや後悔が防止できるようにように先行して調査を行って、安定した資金計画を実現しましょう。

令和4年の契約ではさらに難しい問題が

令和4年度の税制改正により、『既存住宅の築年数要件(耐火住宅25年以内、非耐火住宅20年以内)について、「昭和57年以降に建築された住宅」(新耐震基準適合住宅)に緩和』されることになりました。

これによって緩和対象となった住宅については、耐震基準適合証明書がなくとも住宅ローン控除や登録免許税減税が可能となるでしょう 。

しかし詳細については、租税特別措置法等の国会成立がなければ確定しないため未だ分からない状態となっています。

『住宅の取得等をして令和4年1月1日以後に居住の用に供した場合』とはなっているのですが、他にも条件が付く可能性はないのか、気になるところです。つまり契約書の内容(契約日や引渡日等)を定めるにあたって情報不足で難しい状況になっています。

また別の問題として、『新耐震基準適合住宅』には旧耐震物件の一部が含まれる可能性があるという点です。『昭和57年以降に建築された住宅』ということなのですが、「令和4年度税制改正の大綱」には次のように書かれています。

『登記簿上の建築日付が昭和57年1月1日以降の家屋については、新耐震基準に適合している住宅の用に供する家屋とみなす。』

すなわち、旧耐震の物件(建築確認日が昭和56年6月1日より前のもの)であっても、登記簿上の建築日付が昭和57年1月1日以降のものは、新税制では住宅ローン控除等の対象になる可能性がある訳です。

詳細が分からないため他に条件が付くかも知れず、判断がし難いのですが、物件選びにも影響する問題です。

今までの考え方と大きく異なる面があるため、いずれも非常に悩ましい問題といえます。税理士等の専門家と相談の上で契約内容を定めるのが望ましいでしょう。

[参考資料]

国土交通省HP 報道発表資料(令和4年度税制改正)

財務省HP 令和4年度税制改正の大綱(PDF)

 

登記簿上の建築日付が昭和56年12月31日以前の物件は、住宅減税のために耐震基準適合証明書等が必要となることは新税制においても同じとなります。

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